Berlin BRAIN AND BRAIN PET 2017の参加報告

2017年04月06日 お知らせ

金澤雅人先生より学会の参加報告です。

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ドイツ ベルリンで開催された国際脳循環代謝学会2017 に参加しました.脳循環の基礎の領域の会で,2年に一度の総会です(2月にあった脳卒中協会主催のISCは臨床寄り).今回,当科からは,私のみの参加でした.期間中いろいろとご面倒おかけしました先生方に御礼申し上げます.Berlinは,森鴎外が留学し,舞姫の舞台になった都市です.私にとっては,ベルリンの壁崩壊が一番記憶に残っている首都です.Dankeぐらいしかドイツ語がわからないので,会場傍ぐらいしかいけないと思っていましたが,交通網がわかりやすく,海外でありがちなtroubleもなく,快適な毎日でした.会場は中心部から地下鉄で30分以上かかり,会場の行き帰りは東京のように地下鉄で通っていました.“アインシュタイン・ビッテ”と各駅でアナウンスあり(私にはそう聞こえた),アインシュタインとどういう関係かと思いましたが,ドイツ語で“お乗りください”という意味だそうです.人々は,アメリカ人のようなfriendlyさはないものの,質実剛健,実直な感じがしました.会場への行き帰りの地下鉄駅の壁,町並みの落書きもartisticで印象的です.ベルリンフィルや美術館は時間がなくいけませんでしたが,次は訪れてみたいところです.

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ベルリンの壁の一部が公開されている。
壁にはアート(落書き?)が描かれている。

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アパートの壁にもアート(落書き?)が描かれている。

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ゴールをアシストした香川真司選手。

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ホテル最寄駅の駅舎。

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会場のドイツベルリン自由大学。会期中は桜が満開であった。

この学会は,PhD主体であり,ネクタイをしていたのは,アジアの一部の先生(日本人)ぐらいでした.plenaryの座長だったMass general Hosp(MGH)のProf Lo EHは,座長のときも,いつものようにジーンズにフリースという姿で,とても開かれた会でした(帰国便も途中まで一緒でしたが,同じ服装でした).内容は基礎的なものが多く,個々の演題は難しいでが,興味深いものでした.

私自身は,ミクログリアの細胞療法の内容を発表してきましたが,これまでの国際学会の中でもっとも,声をかけられ,皆が興味を持っているのだなぁと感じ,刺激的でした.以下に報告内容を記します

今回のBrain&Brain PETでは,ミクログリアをはじめとする免疫関連の演題が前回以上に多かった.また,前回以上に中国からの参加者が多く,米国の中国系の人の演題もとても多かった(実際,中国系の人と話しをした回数が多かった).ISCと今回のBrainのyoung investigator awardは,受賞者は異なるが同じのラボ(U of Pittsburgh, Prof Chen)の中国系の人で,ミクログリア関係のものであった(そのラボのPIが,次々回のこの学会の会長に選ばれた)。

ISC(International Stroke Conference 2017),今回のBRAIN and BRAIN PETでは,留学中のボスと数時間話をする機会を作った.彼から,とても有名な先生を何人も紹介してもらった.その中で米国の予算削減の話が出た。現大統領への文句が多かったように思うが,日本だけでなく米国でも予算の一極集中はとても顕著らしく,いわゆるBigラボにお金が集まり,そのため若い芽が育っていないそうだ.そのことを偉い先生同士で危惧していた.

Plenary Lecture U of Edinburgh Prof Macleod
どうやって研究の質をあげるのか,臨床応用するために必要なことは何かという話題.今から10年ほど前,期待された抗酸化薬NXY-059の治験が失敗したときから,実験の精度をいかに高めるかが話題となっている.その当時(今もある意味ではそうだが),1000以上の脳梗塞治療候補がvitroで見出され,うち数百はclinical trialが行われた.しかし,tPA以外に有効性を示せたものは世界にはない.これは,脳梗塞のみならず,MSや他の神経疾患もそうかもしれない.サンプルサイズ,ランダム化,blinded,allocationの重要性を強調していた.近年ではことなる研究施設での再現性も求められている.脳虚血の領域で,’14~16の間に発表された論文では,N=5が全体の30%,N=10でも全体の50%とNが増えてきている(論文の1/3が中国からの報告であることも注目すべき).さらに,30%の梗塞体積縮小の薬物を見出すなら,power analysisも踏まえるとN=18とかそれ以上ないと有意差は理論的にはでるはずもないとのことであった.
MGHのラボの人から聞いたが,細胞準備の方法によっても,虚血後の反応は大きく違うのだそうだ.例えば,microgliaの初代培養を行うとき,トリプシン処理か振盪で細胞のpurificationを行う.私は,後者の方が細胞に刺激をしないと習ったが,彼女の方法ではmild trypsinizationの方が,microgliaを活性化しないらしい.動物モデル,細胞モデルそれぞれの特性から知らないと,実験していることが適切なのがわからないということである.

Microgliaシンポ
この5年間ぐらい,脳梗塞後のミクログリアが必ずしも炎症を惹起するのではなく,神経保護に関わることが示されてきている.もっとも聴取が多かったシンポである.2年前までの議論は,2月にpublishしたSci Repを読んでもらうとわかると思う.今回の総会では,M2化の発表がとても多かった.

*microglia (M2 polarization)
脳梗塞後に増加するmicroglia・macrophageだが,すべてが炎症に関係する(M1 microgliaと呼ぶ)わけではなく,神経組織保護に働くM2 microgliaも存在すると考えられている.しかし,これは概念的なもので,少しの極性の傾きが実際の働きに過ぎない.

脳梗塞に対する細胞療法
演者は,米国の人ばかりだったが,やはりこの領域は米国では,かなり進んでいるというのが実感.PhaseⅡ~Ⅲも多数である.幹細胞が注目されているわけでなく,今回は骨髄由来の単核球移植の話題であった.この報告を書いている帰国途中のFrankfurtまでの便では,この業界のとても有名な先生が何人もご一緒だった(本邦,米国).飛行機が落ちたらえらいことだなぁと思ったが,大きすぎない専門学会だから,このような経験をするのかもしれない.ご高名な先生にも声をかけていただき,うれしいことだった.
次回のBrain&Brain PETは2年後のYokohamaです.日本で開かれるのは,だいぶ久しぶりのようです.日帰りもできますので.ぜひ,参加してみてください.参加を目指して頑張りたいと思います.
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