多系統萎縮症の嚥下障害についての国際コンセンサス基準

2021年04月13日 脳神経内科だより

この度,多系統萎縮症の嚥下障害についての国際コンセンサス基準に関する論文が,Parkinsonism and Related Disorders(Elsevier)のオンライン版で公表されました(Dysphagia in multiple system atrophy consensus statement on diagnosis, prognosis and treatment).このコンセンサス基準の策定に向けて,2017年にイタリアのボローニャ大学で開催された国際会議「The Bologna Consensus Conference Project on Dysphasia」にて,各国から集められた専門家チームが発足しました.そのチームには小澤も加わり,研究を進めました.研究方法は,2020年までに報告された多系統萎縮症の嚥下障害に関する論文をレビューし,一定のエビデンスレベルに達した27件の論文内容をもとに,診断,予後,治療についての重要な項目を列記しました.

嚥下障害の評価は,多系統萎縮症の診断時に直ちに行うべきとし,飲食の途中や直後の咳込み,発声時の痰がらみや嗄声を聞き逃さないことが重要としています.食事に時間がかかる,食事中に疲労感が増すなども疑う要素としています.またunified multiple system atrophy rating scale (UMSARS)やその他の臨床スケールを用いて評価を加えるべきとしています.嚥下障害は多系統萎縮症の予後を悪化させることは明らかであり,とくに誤嚥は生命予後に関わる症状としています.しかし,どのようなタイプの嚥下障害が生命予後に最も影響するのか,あるいは,quality of lifeへの影響については検討不十分としています.嚥下障害への対応は,脳神経内科ドクター,耳鼻咽喉科ドクター,言語療法士,栄養士などからなる診療チームにて集学的に取り組むべきとしています.しかし,特異的な治療法の確立には至っておらず,食形態の検討や飲食時の姿勢など,患者さんごとに個別に検討することが重要としています.誤嚥性肺炎のリスクが高いと判断された場合は内視鏡的胃瘻造設(PEG)を選択肢として挙げていますが,PEGの予後に与える影響は検討不十分であり今後の課題としています.

このような内容は,脳神経内科専門医であれば周知のことと思いますが,多系統萎縮症の嚥下障害についての知識を網羅し,今できることと今後の課題を明らかにした点で,有意義な研究だったのではないかと考えています.

新潟大学地域医療教育センター魚沼基幹病院神経内科 小澤鉄太郎

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