脳血管障害研究

脳小血管病研究グループ

脳が高度のパフォーマンスを発揮するためには,緻密な脳血流の制御が必要です.脳内の血管は脳小血管と呼称され,この血流制御において主役を担います.脳小血管の障害,すなわち脳小血管病は,血流制御機構を破綻させ,様々な脳病変を引き起こします.脳小血管病は中枢神経の加齢性疾患の一つであり,認知症の主因になっていますが,その分子病態や治療法は不明です.

脳小血管病研究グループでは,単一遺伝子異常による脳小血管病の解析を通じて,脳小血管病の分子病態へのアプローチを行い,得られた知見に基づいた新たな治療法の開発を目指しています.当研究グループは,これまでにHTRA1(high temperature requirement serine peptidase A1)遺伝子の変異が,HTRA1蛋白のプロテアーゼ活性を低下させることによって常染色体劣性遺伝形式の脳小血管病であるCARASIL(cerebral autosomal recessive arteriopathy with subcortical infarcts and leukoencephalopathy)を起こすことを明らかにしました (図1).

図1

この疾患は孤発性脳小血管病と同様の病理像を呈します(図2).

図2

また,HTRA1遺伝子変異の一部が,優性阻害効果によって優性遺伝形式の脳小血管病を引き起こし,その頻度が脳小血管病患者の約5%に達することを明らかにしました (図3).

図3

これらの事実は,HTRA1遺伝子異常に関連する脳小血管病の裾野が広く,孤発性脳小血管病と共通の分子病態が存在することを示唆しています.

HTRA1は脳小血管とその周囲を取り囲むアストロサイトに発現し,細胞外マトリックスに関連する分子を基質として切断します.細胞外マトリックスは組織特異的な微小環境を作り出しています.そのため,HTRA1のプロテアーゼ活性が低下すると,その基質が過剰になり,細胞外マトリックスの乱れを介して,微小環境の異常が起こる可能性があります.実際にCARASIL患者さんの脳小血管では,細胞外マトリックスに関連するフィブロネクチンやtransforming growth factor (TGF)-βの蓄積を認めます (図2). このように脳小血管病を細胞外マトリックスの異常という観点で解釈する手法は,孤発性脳小血管病の病態解析にも応用できる可能性があります.当研究グループでは,引き続き,孤発性の病態へ一般化できる分子を発見し,治療法を開発することを目標に研究を進めます.

発表論文

  1. Nozaki H, Kato T, Nihonmatsu M, et al. Distinct molecular mechanisms of HTRA1 mutants in manifesting heterozygotes with CARASIL. Neurology 2016;86:1964-1974.
  2. Nozaki H, Sekine Y, Fukutake T, et al. Characteristic features and progression of abnormalities on MRI for CARASIL. Neurology 2015;85:459-463.
  3. Nozaki H, Nishizawa M, Onodera O. Features of cerebral autosomal recessive arteriopathy with subcortical infarcts and leukoencephalopathy. Stroke; a journal of cerebral circulation 2014;45:3447-3453.
  4. Shiga A, Nozaki H, Yokoseki A, et al. Cerebral small-vessel disease protein HTRA1 controls the amount of TGF-beta1 via cleavage of proTGF-beta1. Human molecular genetics 2011;20:1800-1810.
  5. Hara K, Shiga A, Fukutake T, et al. Association of HTRA1 mutations and familial ischemic cerebral small-vessel disease. The New England journal of medicine 2009;360:1729-1739.
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