先輩医師からのメッセージ

 

若手医師からのメッセージ

小出眞悟(入局3年目)

 自分の打腱器を買ってから2年が過ぎました.まだ若輩者ではありますが,日を追うごとに専門に脳神経内科を選んでよかったという思いが強くなっています.

 脳神経内科の魅力は人間に対する真摯さにあると感じています.神経疾患の診断には問診による病歴聴取が何より重要です.症状の発症形式を詳しく聞くことが,血管障害か変性疾患か免疫疾患なのかなど病態を考える上で大きく役立ちます.また、その人の生活背景を聞くことはその後の治療を考える上でも重要です.同じ病気の患者さんであっても同じ人生を送っている人はおらず,その人によって望んでいる治療や社会サービスは異なります.つまり,よく話を聞いて,よくその人のことを知ることが神経疾患の診断や治療には必要であり,脳神経内科という仕事は日常的に真摯に人間に向き合うことになるのだと思っています。

 様々な診療科や病院を経て、診断がつかなかったり治療がうまくいかなかったりして,脳神経内科を最後に頼ってやってくる患者さんもいます.そんな患者さんでも問診と診察で診断がつくことがあるのもこの科の魅力ではありますが,中には答えが簡単には出ないこともあります.それでも考え続けて,真摯に人間に向き合い続けるのが最後の砦である脳神経内科なのだと思います.

 新潟の脳神経内科は層が厚く,大学病院にも市中病院にも尊敬できる先輩方がおり,年代の近いレジデントも多くいます.一緒に脳神経内科を勉強しましょう.

種田朝音(入局1年目)

 新潟大学卒業後,同院で初期研修を行い,2020年4月に脳神経内科に入局しました。

 初期研修で経験した診療科は全て楽しく,専攻科を決めるにあたり非常に悩みましたが,ある先生の「脳神経内科は病気を通して患者さんの人生を診る科」という言葉が決め手になりました.神経内科領域には,例えば歩くこと,話すこと,食べることなど,機能が失われる疾患が多くありますが,患者さんが人生で何を大切にしてきたかという価値観に触れ,病気になったあとの人生を良いものにするお手伝いができたら,それは一生を通してやる価値のあるお仕事だと思いました.今はまだ知識不足を痛感する毎日ですが,日々の診療や勉学に励み,早く力を付けたいと思っています.

 新潟大学の脳神経内科はとても教育的です.先輩レジデントからはチームの壁を超えて指導を受けることができ,指導医の先生も非常によく面倒を見てくださります.科全体で若手を育てようという雰囲気を感じます.指導を受けるだけではなく,レジデントとして初期研修医や学生を指導したり,レジデント勉強会のプレゼンターを担当するなど,人に教えるチャンスも多く与えられます.勉強するには素晴らしい環境だと思います.

 進路に迷っている初期研修医,医学生の皆さんが,少しでも新潟大学の脳神経内科に興味を持ってくださったら嬉しいです.ぜひ一度,研修,見学にいらしてください.

研修開始後1年間を終えて

池上いちこ(入局2年目)

 私は他県の大学を卒業し,同県での初期研修を終え,その後新潟大学の脳神経内科に入局しました.新潟には縁もゆかりもなく,ましてや知識も技量もなく不安だらけの日々でしたが,教育的な先生方のご指導のもと,素晴らしい同期とともに1年を終えることができました.

 血管障害,感染症,自己免疫疾患,変性疾患など,急性期から慢性期まで幅広く経験できるのが脳神経内科の魅力の1つだと思います.解明されていない部分も多く,研究への取り組みもさかんです.また,他の先生方が書かれているように患者さんとの距離が近いのも当科ならではと思います.

 1年を終え,上記の魅力に加えて,病態や治療方針を科内で共有し検討すること,そのために情報を集め,客観的に伝えることの重要性に気づかされました.疾患の特性上,血液検査や画像のみでの評価は難しく,治療のメルクマールをどうするか,また,どのような治療が推奨されているのか等を調べ検討する時間が多かったです.プレゼン力も鍛えられます.

 大学では週に2回検討会が行われますが,4月から移動になった病院でも定期的な検討会が催されます.若手の学びの場となっているのはもちろん,よりよい医療が患者さんに提供できるようにという科全体としての気概を感じます.

 あくまで主観ですが,脳神経内科は未解明の部分が多く,業務内容も多岐に渡るため,様々な能力を生かすことのできる門戸の広い科と思います.興味のある方はもちろん,選択肢のひとつとして考えていただいている方,はたまた科を決めかねている方,ぜひ一度見学にいらしてください.お待ちしております.

岩淵洋平(入局2年目)

 脳神経内科に入局してから,あっという間に1年が経ちました.

 医師となって初めて病院が変わり,責任も大きくなり,環境の変化に当初は戸惑いましたが,1年間通して,よい臨床経験を得ることができたのは,ひとえに周囲の人に恵まれたからです.教授を始めとしたスタッフ,病棟指導医の先生方,同期や学年の近い先輩方,病棟のスタッフの皆さんにも支えてもらい,充実した1年を過ごすことができました.

 小野寺教授は非常に気さくな方で,悩んでいることがあれば,いつでも相談に乗って下さいました。所見の解釈や診断に困る患者さんがいれば、レジデントと一緒にベッドサイドで診察をしてくださったり,キャリアの相談にも親身に乗って下さったりしました.病棟指導医の先生方は、絶妙な距離感で、レジデントにある程度裁量権を与えるものの,要所ではしっかり指導してくださいました.時には,難しい症例では、多くの論文を読むこともありましたが,そういう時は一緒に論文を検索したり,適切な論文を紹介したりしてくださいました.

 病棟には,学年の近い同期,先輩も多く,ともに高めあい,苦楽を共にする仲間に恵まれました.

 脳神経内科は,長く付き合っていく疾患が多い診療科です.そのため,患者さんの人となり,歴史が非常に重要です.どのような人生を今まで送り,どこで,どのような人と,どのような暮らしをし、これからどのように暮らしていきたいのか.同じ疾患でも,患者さんによって,治療や対応は異なります.そのため,どれがベストなのか,迷うことも多々ありましたが,いつも助言をくれる人が周りにいて,患者さんのために,よい答えを出せたと思います.

一緒に患者さんのために悩んでくれる仲間を待っています!

大学院生からのメッセージ

坪口晋太朗

 私は,地元も出身大学も新潟ではありませんが,ALSの研究がしたいと思い新潟大学に入局しました.ALSの研究をすることが学生時代からの夢でした.

 同じ脳研究所の中には,病理学分野や基礎分野の教室があり,研究の幅が広がります.実際私も今,システム脳病態(上野研究室)にお世話になりながら研究を進めています.

 当科は,やる気と熱意があれば,みな全力でサポートしてくれます.出身,境遇に関係なく,自分の夢を追いかけることができる場所だと思います.

みなさんも私たちと一緒に頑張ってみませんか.

安藤昭一朗

 学生のころから, 脳神経内科への興味を何となく持っていましたが, 実際の臨床研修で, 患者さんと真摯に向き合う脳神経内科医の姿をみて, 自分もこんな医師になりたいと思い,進路を決めました.

 私は, 出身大学は新潟大学で, 初期臨床研修期間は県外へ出て研修を行いましたが, 脳神経内科を学ぶには新潟しかないと思い, 医師3年目に新潟へ戻りました.

 新潟県には, 大学病院・市中病院問わず多くの指導医の先生がおられるため, 県内どこでも脳神経内科のエッセンスを学ぶことができます. また, 大学には脳研究所もありますので, 臨床の中で感じた疑問を基礎研究へ繋げやすいというのは, 新潟大学ならではの特色です. さらに, 若手も豊富であり, 励まし合える仲間が多いことも, 新潟大学脳神経内科の魅力だと思います. 新潟へ戻りはや5年が経ちましたが, 戻ってきて本当によかったと感じています.

 脳神経内科は, 患者さんのお話をよく伺い, 直接触れて診察するという, 医師としての最も大事な部分を, 今でもきちんと大切にできている科の1つであると思います. また, 他科で説明のつかない症状があったとき相談を受けやすいこともあり, 総合診療科的な側面も持ち合わせています. 患者さんおひとりおひとりにしっかりと向き合い, 幅広いジャンルの疾患を診たいという先生方にぴったりです.

 臨床と研究の両面で非常に奥深く, 未解決の課題も多くあるからこそやりがいも大きいのが脳神経内科です. 是非一緒に新潟で神経を学びましょう!

指導医からのメッセージ

金澤雅人

私は20年ほど前,外来・病棟で患者さんと真摯に向き合う神経内科の先生をみて,患者さんからもいろいろ教わり,こういう医者になりたい,神経疾患を克服したいと思い,脳神経内科にすすみました.脳神経内科を専門に選んで本当に良かったです.

理由

  • 進歩の過程にあり,それを自分たちが担える
  • 患者さんのニーズがとても高い
  • 患者さんのそばで診察というシンプルな作業で,病気に迫れる

神経診察は苦手,病気についても取っ付きにくいイメージあるかもしれません.しかし,疾患によって,検査は必要なく,ぱっと見て,診断可能な病気があるぐらいです.疾患・病態の理解に関して,自分たちが時間をかけて理解したことを半分以下の労力でわかってもらえるように指導していくのが,先輩の私たちの役目です.これまでの伝統もあり,当科の先輩たちはそういう人たちの集まりです.

やる気と興味がある人,いつでも一緒に学んでいきましょう.

徳武孝允

神経内科を学ぶにあたり,優れた先輩にご指導いただき,新潟の神経内科の伝統に触れ,私は新潟で神経内科を学ぶことを選択しました.新潟大学脳神経内科は,神経変性疾患,認知症,神経免疫疾患,脳血管障害などさまざまな分野で優れた研究実績を持ち,関連病院も含めて臨床面も優れた先輩方がたくさんおり,神経内科を学ぶのに最適と思います.

神経内科診療の魅力の一つは,問診から得た発症の形式とその後の経過から病態を考え(病態診断),診察所見から解剖学的な病巣を推定し(解剖学的診断),これらを統合することで診断に近づくことができることと思います.神経内科が扱う疾患は,急性疾患から慢性疾患まで幅が広く,脳卒中やてんかん等の救急治療もやりがいがあり,また一方で神経難病を中心とした慢性疾患に対する診療も時間をかけて行うことができます.幅広い疾患領域のなかから自身の希望・ライフスタイルに応じて専門、職場を選ぶことができることも大きな魅力と思います.

皆さんも一緒に新潟で神経内科を学びましょう.

今野卓哉

Mayo Clinic Floridaでの留学体験

私は平成27年3月より,アメリカのフロリダ州ジャクソンビルにあるMayo Clinic,Department of NeurologyのZbigniew K. Wszolek教授のもとに留学しています.今回,留学体験記を書く機会をいただきました.主にこれから留学するであろう医局の後輩や,当医局に関心を抱いている全国の医学生さんたちに向けて書いてみたいと思います. Mayo Clinicは全米有数の総合病院です.ミネソタ州ロチェスターにある本部のMayo Clinicは,U.S. Newsが発表する全米病院ランキングで第一位(2016¬-2017)にランクされました.私が留学しているジャクソンビルは,Neuroscienceの研究が盛んで,日本からの留学生も多く在籍しています.臨床部門,神経病理部門,基礎研究部門が緊密に連携しており,新潟大学脳研究所と似た構造です.私が師事しているWszolek教授は,パーキンソン病をはじめとしたMovement disordersを専門としており,特に遺伝子が関わる家族性の疾患を研究対象としています.SNCA変異やLRRK2変異を有する家族性パーキンソン病や,MAPT変異を有するパーキンソニズムを伴う前頭側頭型認知症(FTDP-17)の家系について,遺伝子が発見される以前より丹念に臨床情報とサンプルを収集され,歴史的な遺伝子発見に貢献してきた実績があります.私は大学院でhereditary diffuse leukoencephalopathy with spheroids (HDLS) の研究をしていましたが,この原因遺伝子であるCSF1Rを発見したのもWszolek教授の研究グループでした.この仕事が契機となりWszolek教授と接点を持つことができ,現在に至っています. 私が新潟を出発した日は,小雪が舞い散る寒い日でしたが,ジャクソンビル空港に降り立つとそこは別世界.強い日差しと高い湿度,ヤシの木が生い茂り,3月というのにすでに夏の様相でした.到着時は家族全員,長い袖丈の上下にマスク姿という冬の新潟では当たり前のいでたちでしたが,ここフロリダでは奇異なアジア人に見えたことでしょう.一瞬にして自分たちが外国人であると認識しました.フロリダ最大都市であるジャクソンビルは人口80万人超と新潟市と同程度で,街自体はほどよく田舎です.高層ビルはダウンタウンに少しあるのみで,高い建築物はほとんどありません.Mayo Clinicのすぐ近くに広がるビーチに初めて行ったときには,その広さに息をのみました.3月から12月くらいまで夏の軽装で過ごせます.新潟の冬を知る者としては,青空のもとリラックスした雰囲気で仕事に臨めるこちらの環境は,格別としか言いようがありません. Wszolek教授は臨床の教授ですので,ご自身のラボは持っていません.そのため,私の留学生活は一般的な基礎研究留学とは異なり,臨床側での仕事が主体となっています.患者さんと会うために正装を義務付けられており,人生で初めて,毎日スーツで出勤しています.Wszolek教授と一緒に患者さんの診察をしたり,研究にご協力いただく患者さんのUPDRSを取ったりと,直接患者さんと触れ合う機会が多くあります.Wszolek教授が20年以上前に報告されたFTDP-17の家系の方が,Wszolek教授を慕って遠方からいまだに外来に通っておられることには驚きました.南米やヨーロッパからも患者さんが訪れます.遠方在住の患者さんを診察するためのfield tripに同伴させていただく貴重な機会もありました.また,Dennis W. Dickson教授が率いる神経病理学部門とはシームレスな関係性があり,時間の許す限りでCPCやbrain cuttingに参加しています. Wszolek教授はとても気さくで,驚くほど面倒をよく見てくださいます.毎朝,私の部屋に顔を出されては,コーヒーを飲みに誘ってくださり,クリニックのお庭を一緒に散歩することから一日が始まります.こちらに来て実感したことは,臨床医は臨床の仕事,病理医は病理の仕事,基礎研究者は基礎研究に専念できる,ということです.言葉にすると当たり前のことですが,日本での仕事環境と比較すると,効率の良さが際立っています.また,各部門が協力して仕事を進めるスタイルがよく機能していて,互いが自分のできることを惜しみなく提供し合い,結果として大きな成果につながっています.国内外の病院や研究機関とのコラボレーションも多く行われており,想像以上に開かれていると感じます.Wszolek教授はこれらの仕事をマネージメントする立場にあり,毎朝コーヒーを飲みながら,教科書には書いていない様々なことを教えてくださいます. 留学生活の一つの醍醐味は,これまで以上に多くの時間を家族と共に過ごせることです.幸いWszolek教授は積極的に学会に参加させてくれますので,家族を連れて学会の地を訪れることが楽しみの一つになっています.アメリカの地で日米の違いを認識し,双方の長所短所が見えてくるのも留学の面白さです.留学をするとアメリカ生活のよさが板について離れがたくなる場合もありますが,私は日本で,新潟の地で,神経内科医として社会貢献したいと変わらず思っています.留学先で感じ,学び得たことを,新潟でどのように活かすかが,帰国後の課題です. 留学は特別な時間です.当然,苦労も数多くありますが,日本では得られないことがたくさんあります.ぜひ医局の若い先生方は留学を一つの目標として頑張ってください.学会等でアメリカを訪れる機会がありましたら,ぜひジャクソンビルにもお立ち寄りください.その際は,くれぐれも軽装かつマスクなしでお願いします.


Wszolek教授

Neurologyの若きレジデントたち

Field trip

ジャクソンビルビーチ

住んでいるコミュニティ

河内泉

「患者さんに役立つ研究・診療」を行い,新潟で神経学を極める

新潟大学脳研究所神経内科の初代教授は椿忠雄先生です. 東京大学から1965年に赴任されました. 全国に先駆け, 新潟の地に神経内科学を根付かせ, 神経内科のエキスパートを数多く育てられました. 開局から50有余年を経た今もなお, 私達, 医局員は椿先生による「問診 日ごろ心にとめている十ヵ条」 (下記参照) を胸に携え, 診療しています. 私が医師になった20年以上前までは, 他科の先生から「神経学はまだ未分化で, 治療法のない診療科だ」と揶揄されたものでした. しかし今や状況が一変しました. 私の専門分野である多発性硬化症では複数の疾患修飾薬が認可され, さらに新たな薬剤開発が進んでいます. 脳梗塞の分野においてもt-PAをはじめとした血栓溶解療法やカテーテルによる血栓除去療法が脚光を浴びています. ようやくいくつかの神経疾患で新たな治療法が開発され, 実際に使われる時代になりました. しかしこのような時代であっても, 椿先生の言葉「問診 日頃心にとめている十ヵ条」が色褪せることはありません. 患者さんの声をよく聴き, 患者さんに寄り添いながら, 患者さんに役立つ研究と患者さんに共感する心を持った診療を行うことが重要です. 新たな発見は患者さんからの言葉がヒントになることもあります. 椿先生以来, 語り継がれ, 受け継がれている「神経学を志す心」, 「神経内科診療の極意」, 「患者さんに役立つ研究を行う体制」が新潟にはあります. 長い伝統のある新潟の地で, 一緒に神経学を極めましょう.

「問診 日ごろ心にとめている十ヵ条」

新潟大学教授・神経内科学

椿 忠雄

一,神経病ほど問診が重要な疾患はないと思う.誇張ではなく,診断の八割くらいはこれで大よその見当がつく.最近,一般内科では検査所見の比重が大きくなっているが,神経内科はむしろ問診と病床側の診察が重要である.

ニ,神経病の問診のなかで最も重要なことは,症状はいつおこったのか,初発症状の部位はどこか,急激におこったのか(何時何分という程急激か,それほどではないか)ではないかと思う.どんなときでもこれをおろそかにしてはいけない.

三,問診が重要なことは,単に診断のためだけではない.これを通して,医師と患者の間に精神的親近感ができることである.大学の外来では,問診は若い医師や学生が行うことがある.これは診察医の時間を節約していただけるのでありがたいが,診察の本質からみて,必ずしも好ましくない場合がある.私はどんなに完全に問診(予診)ができていても,患者に何らかの質問をすることにしている.それはすでに得られている情報であるかのようにみえても,書かれた情報とはちかったものがえられるはずである.

四,問診の場合,医師にとって無意味と思われる患者の供述であっても,ある一定の時間は患者の思っていることを述べてもらう.それは患者に満足を与えるとともに,患者の心のなかにあることがわかる.

五,患者の何が,最も苦しいか分かることが大切である.単に主訴という形式的な言葉ではあらわされないものが大切である.患者は案外病気の本質とは別のことで苦しんでいることがあり,これを取り除くことができる.

六,多数の患者が待っており,診療時間に追われているときに,ごたごたと供述されることは医師にとって困ることがあり,患者の供述を適当なところで止めさせることも必要ではあるが,少なくとも,前述のことは忘れてはいけないと思う.

七,公害や災害事故の問診で,患者の供述は必ずしも事実でないことがある点で,難しい問題がある.この場合でも患者を非難してはいけない.多くの患者は故意に虚偽の供述をしているのではない.私は患者の供述を言葉通りにきき,主観を加えずにその供述を記述することにしている.このようなことで,かえって真実を見いだせることが多い.

八,問診は診察のはじめだけに行うのではなく,診察の途中にも随時会話をして,情報を深めるのがよいと思う.むしろ,それによりほんとうの供述がえられるように思われる.

九,医師が患者に敬意をはらうという態度で問診をすることが望ましい.一般に患者は弱者,医師は強者の立場になりやすいので,詰問口調になりやすい.しかし,よく聞いてあげるということが,その後の診察に大きなプラスになるであろう.

十,神経病の場合,問診は,言語障害,精神症状,知能,意識状態の検査にもなることを忘れてはならない.

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