宮武正 教授を偲んで
このたび,新潟大学脳研究所脳神経内科学分野の発展に多大なるご貢献をいただいた宮武正 教授がご逝去されました.心よりお悔やみ申し上げます.
宮武教授は昭和56年に新潟大学脳研究所教授にご就任され,神経内科学に生化学の視点を導入されました.その先見的な信念を生涯貫かれ,後に3代目教授となられた辻省次 教授,4代目の西澤正豊 前教授をご指導され,現在に繋がる新潟大学脳神経内科の学統の基盤の一つを築かれました.
私が研修医から大学院生として宮武先生のもとで学ばせていただいた日々を振り返ると,先生の厳しくも温かいご指導の数々が蘇ります.回診前には十分な準備をして臨んだつもりでも,回診後には新たな課題を与えられ,それに対して夜を徹して調べたことを思い返します.優しい笑顔の奥に鋭い眼光を宿し,臨床,研究の細部まで深く追求されながらも,私たち研修医の意見にも真摯に耳を傾けてくださいました.回診後に渥美准教授から「今の教授は怒っているんだ」と言われた懐かしい思い出も,今となっては貴重な教えの一つだったと感じております.
四国香川のご出身らしい温かみのある口調で「きみ そうだろう」「やらにゃあかんがー」「寝ずに死ぬ気でがんがんやれ」とハッパをかけられながらも,昼にはお声をおかけいただき中庭でキャッチボールのお相手をさせていただくなど,人間味あふれるお人柄でした.私自身のテーマは副腎白質ジストロフィーでありましたが,「神経内科にとって脳梗塞はなんとか分子レベルで解明せにゃあかん」と常々おっしゃられ,その言葉は今も重い宿題として私の胸に残っております.先生は私たち一人ひとりの言葉に真摯に向き合ってくださり,そして晩年まで,ALSの克服という難題に真正面から挑み続けておられました.
宮武教授の時代に入局され,後に国際的な研究を先導することになる認知症研究の柳澤勝彦 先生,プリオン研究の金子清俊 先生,ALS治療薬の開発に貢献された吉野英先生,ギランバレーの結城伸泰 先生や,現在の新潟県の脳神経内科診療を担う多くの先生方が,宮武先生の薫陶を受けて育たれました.これこそが宮武教授の最大の功績であり,先生のお志は確実に後進に受け継がれております.
宮武正 教授のご冥福を心よりお祈り申し上げますとともに,5代目として先生から学んだ精神を胸に,新潟大学脳神経内科のさらなる発展に尽力することをお誓い申し上げます.(小野寺理)
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