AAIC 2025(国際アルツハイマー学会)参加報告
2025年7月27日から30日の4日間,アルツハイマー病協会(Alzheimer’s Association, AA)主催の国際会議(AAIC)に参加いたしました.今年はカナダ・トロントでの開催で,昨年のフィラデルフィアに続き,北米での開催となりました.トロントは涼しいことを期待しておりましたが,日本と同様に暑く,日差しも強く,大変でした(とはいえ,会期中の日本はそれ以上に猛暑だったようです・・・).
多くの重要なトピックがありましたが,抗Aβ抗体薬に関する種々の新たなデータは注目に値しました.レカネマブ投与において,治療開始時にタウ蓄積が少ない症例では「認知機能の悪化が見られない」,あるいは「むしろ改善傾向を示す」例が一定数存在するという知見が示されておりました.今後,早期の治療介入が一層,重要視されていくと思われます.
また,p-tau217といった血液バイオマーカーの臨床実装が期待される中で,実際の運用に向けた臨床診療ガイドライン(Clinical Practice Guideline)がAAより発表されました.今後の知見の蓄積に応じて,随時改訂が行われていく予定とされています.
個人的に印象的であったのは,AAとアルツハイマー病国際ワーキンググループ(IWG)の両組織によるアルツハイマー病の診断に関するセッションでした.AAは2024年に新たな診断基準を発表し,無症候であってもバイオマーカー陽性であればアルツハイマー病と定義する立場を示しています(当初,発表時には大きな議論を呼びました).一方でIWGは,たとえバイオマーカー陽性であっても無症候の段階ではアルツハイマー病と診断すべきではない(リスク段階)とする立場を取り,これは心理的負担や雇用・保険への影響など,社会的な不利益への懸念を背景としています.
血液バイオマーカーの進歩により,簡便で早期の診断が可能になりつつある現在,その適切な活用とともに,「アルツハイマー病をいつから疾患とみなすか」という問いは,今後の国際的な合意形成に向けて引き続き重要な議論になるものと考えます.(石黒敬信)