国際アルツハイマー病会議(AAIC)2026参加報告

2026年07月18日 脳神経内科だより

 2026年7月12日~15日にかけてロンドンで開催された Alzheimer’s Association International Conference(AAIC)2026に参加しました.AAICはアルツハイマー病協会が主催する,認知症研究分野における世界最大規模の国際学会であり,基礎研究から臨床研究まで幅広い最新の知見が発表されます.シンポジウムやプレナリーセッションには各分野を牽引する世界的な研究者が多数登壇し,認知症研究の最前線を学ぶ貴重な機会となりました.

 渡航前にはヨーロッパの熱波が報道されており暑さを心配していましたが,ロンドンは朝夕は涼しく,日中も25~26℃程度で湿度が低く,会期中は雨に降られることもなく快適な気候でした.一方,帰国直後には日本の高温多湿との違いをあらためて実感しました.

 今回参加した血液バイオマーカー関連のセッションでは,血漿リン酸化タウ(p-tau217)が中心的な話題となっていました.診断性能の高さについては既に多くの研究で示されており,今回のAAICでは性能評価そのものよりも,「実際の医療現場でどのように運用するか」という実装(implementation)に議論の重心が移っていることが強く印象に残りました.

 具体的には,血漿p-tau217をプライマリーケア(非専門医療機関)の段階から活用することの有用性が紹介されました.血液バイオマーカーを用いることで,プライマリーケア医の診断精度が専門医レベルまで向上し,専門医療機関への紹介や追加検査の判断を支援するツールとして期待されていました.また,一部のエキスパートからは,臨床症候がアルツハイマー病として矛盾せず,血漿p-tau217が陽性であれば,必ずしもアミロイドPETや脳脊髄液検査を経ずに抗Aβ抗体治療の開始を検討できる可能性についても提案されました.

 一方で,別のセッションで実施された参加者へのライブポーリングでは,「抗Aβ抗体治療を行う際には血漿p-tau217検査のみでは不十分であり,アミロイドPETあるいは脳脊髄液検査による確認が必要」と考える参加者が多数を占めていました.エキスパートが示す将来像と,実際に診療を担う医療者の考え方との間にはまだ一定のギャップがあり,血漿p-tau217をどの場面で,誰が,どのように活用するのかという運用方法については,現在も世界的に議論が続いていることを実感しました.

 さらに,血漿p-tau217の臨床実装に向けては,このような運用方法の議論に加え,適切なカットオフ値の設定,測定値に影響を及ぼす交絡因子を考慮した結果の解釈,さらには検査結果を踏まえた患者さんへの説明やその後の診療フローの構築なども重要な課題として挙げられます.血漿p-tau217は今後の認知症診療を大きく変える可能性を有していますが,診断性能を評価する段階から実臨床での最適な運用方法を検討する段階へと移行しつつあります.実装方法をどのように構築していくのかが,今後の重要な課題であるとあらためて感じました.(文責 石黒敬信)

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